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富山地方裁判所 昭和51年(ワ)251号 判決 1978年5月26日

原告 酒井敏雄

被告 国

訴訟代理人 松原武 月山兵衛

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判 <省略>

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外富山県配置家庭薬商業組合(以下本件商業組合という)は、中小企業団体の組織に関する法律に基づき、昭和三八年五月一日、富山市千歳町二〇番地の富山県薬事研究所講堂において創立総会(以下本件創立総会という)を開催し、定款の承認、事業計画の設定、及び収支予算決定に関する各議決並びに役員の選挙を行つた。

そして、訴外富山県知事は、同年一二月二八日、右組合の設立を認可した。

2  原告は、右認可は中小企業団体の組織に関する法律(以下中小企業組織法という)に違反してなされたものであるとして、富山地方裁判所に右認可処分取消の訴(以下本件取消の訴という)を提起(同裁判所昭和三九年(行ウ)第一号商業組合設立認可処分取消請求事件)したが、同裁判所において請求棄却の判決(以下本件第一審判決という)を受け、これに対し名古屋高等裁判所金沢支部に控訴(昭和四六年(行コ)第四号)したが、同支部において控訴棄却の判決(以下本件控訴審判決という)を受け、更に、最高裁判所に上告(同裁判所昭和四七年(行ツ)第二九号)したが、昭和五〇年七月一五日、同裁判所第三小法廷において上告棄却の判決(以下本件上告審判決という)を受け、右判決は確定した。

3  右訴訟は当然原告が勝訴すべきものであるのに、第一審及び控訴審の裁判官は、法律上及び事実上の判断を誤り、かつ、法律判断を遺脱して違法に原告を敗訴せしめた(その詳細は別紙違法事実一覧表記載のとおりである。)。そこで原告は、上告理由として同表一ないし六項記載と同旨の主張をしたが、上告審の裁判官は、右主張に対して法律判断を遺脱して、違法に上告棄却の判決をしたものである。

4  原告は、右各裁判官の違法な裁判によつて、次のとおり合計金一〇〇万円の損害を被つた。

(一) 第一審

納入金   金一、三〇〇円

貼用印紙額 金  五〇〇円

(二) 控訴審

納入金   金四、四一五円

貼用印紙額 金  七五〇円

(三)上告審

納入金   金二、四八〇円

(現実に納入したのは金三、四七〇円であるが、事件終結後に金九九〇円を返還された。)

貼用印紙額 金六、七〇〇円

(四) 慰藉料金九八三、八五五円

5  よつて原告は、被告に対し、国家賠償法一条により、右損害金一〇〇万円と、これに対する本訴状送達の翌日である昭和五一年九月二二日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3ないし5は争う。

第三証拠 <省略>

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  原告の本訴請求は、既に確定した判決に対し、裁判官が法律上及び事実上の判断を誤り、又法律判断を遺脱して原告を敗訴させた違法があり、損害を被つたから、被告に対し、国家賠償法一条に基づき、その賠償を請求するというにある。

そこでまず、かかる請求の当否について検討するに、現行民事訴訟制度は三審制を採つており、裁判に不服のある者は上訴手続によつて救済を求め得る。他方、確定した裁判に対しては、再審等の手続により取消されない限り、これを適法なものとして最終性を認め、裁判に示された判断に対する主張を遮断することにより、法的安定性と権利救済との調和をはかつている。従つて、確定裁判の判断を違法として、国家賠償を請求するためには、その前提として、まず、右確定裁判自体を取消すことが必要であるといわねばならず、このことは訴訟制度の本質的な要請であるといえる。

蓋し、確定した裁判の判断が違法であるとして、再審等の手続を経ずに直接国家賠償を請求することを許せば、訴訟法が一方では適法としてこれに不可争性を認めた判断が、他方では違法とされて国家が責任を負うということになり、矛盾を来すことになるからである(なお、確定裁判と共通の争点をもつ別事件で、右争点につき、異つた判断のなされることはありうる。しかし、これは司法判断が当該事件に関する歴史的証明によることからくる当然の結果であり、別事件で異なる判断がなされるということと、確定裁判における判断が適法とされることとは別の問題である。また、裁判の判断以外の事項(例えば、判決言渡の著しい遅延、判決原本未完成による言渡等)によつて損害を被つたとして国家賠償を請求する場合は、これについては再審等を考える余地がない上、裁判が確定したからといつて、かかる行為を適法として保護する必要性はないものであるから、直接国家賠償を請求することが可能である。)。

三  本件訴訟では、原告が法律判断の誤り、遺脱の違法があると主張する本件第一審判決、控訴審判決及び上告審判決が再審によつて取消されたとの主張・立証がない。従つて、原告の本訴請求は、その主張自休失当として、排斥を免れないものといわなければならない。

四  よつて、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大須賀欣一 大野博昭 福井欣也)

別紙<省略>

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